2010.6 プノンペン事務所 眞野ちひろ

教科書がない

 今年に入ってからASACは小学校への教科書支援を5件行いました。ASACは学校建設が事業の主体ですので、これまでは私も学校視察に行っても学校の設備を見るのが精一杯で、生徒がどのような状態で授業を受けているのかまではあまり気が回っていませんでした。しかしある人から、ASACの建設した学校で生徒が教科書をほとんど持っていなかったという報告を受け、それ以来私も視察のたびに教科書についても気をつけるようにしたところ、ほぼ全ての学校で教科書が足りていない事実が浮かび上がってきました。

一人一冊の教科書で勉強できるようになった生徒たち
 カンボジアの教科書は貸出制をとっています。すなわち、生徒は学校から教科書を借りて1年間使い終わったら返します。同じ教科書を何人もが使うため、教科書を印刷する予算の少ないカンボジアのような国には適した方法です。使い古された教科書を換えるために、教育省では毎年各学校から上がってくる要望数を追加印刷して配布しています。しかし現在、この教科書が必要部数届かないため多くの生徒が教科書のない状態で授業を受けています。生活に余裕のある家庭の生徒は、市場で売られている教科書を買っていますが、田舎の貧しい子どもたちにはそれも出来ません。先生が教科書の内容をすべて黒板に書いて、生徒がそれをノートに写すという時間のかかる方法で授業が行われていたり、クラスに何とか数冊の教科書がある場合にはグループに分かれてその教科書を一緒に使い、順番に家に持ち帰って勉強したりしています。教科書が足りないことが当たり前になってしまっているように見えますが、かつてそうした環境で勉強していたASACのスタッフに聞くと、やはり「不便だった」と言います。
 なぜ生徒に教科書が届かないのか。そのヒントは「市場に教科書が売られている」というところにあります。実は、教育省から各校へ送られる過程で誰かが教科書を抜き取って市場へ売っているのです。私がプノンペンの本屋さんから聞いた話では、地方の学校の先生や、役人などが「非売品」と書かれた教科書を売りに来るということでした。公務員の給料は低いので、この行為が生活苦から来ることだとは思うのですが、教育に携わる人間が生徒の教科書を売ってしまっているというのは残念な話です。それ以外の教科書不足の原因としては、予算不足のためそもそも毎年追加印刷される教科書の数が少ない、指導要領が頻繁に変わるために古い教科書が使えなくなる、という話も聞きました。
 なお、教育省は街の本屋に「非売品」の教科書を売りに来る人がいても決して買い取らないよう呼び掛けるキャンペーンを今後行うと聞きましたが、あまり効果があるとは思えません。ASACが支援した教科書には寄付主の名前の入ったスタンプを押していますので転売されることはありませんが、同じように教育省が最初から「○○州○○小学校」と教科書にスタンプでも押して配布すれば、転売を防げるのではないかと私は思っています。しかし、彼らは今のところそこまでの手間とお金をかけるつもりはないようです。ASACとしても、消耗品である教科書の支援は判断の難しいところで、今後も支援が可能な場合には取り組むという立場です。