2013年カンボジア総選挙で見たこと

( 会員、前調整員 眞野ちひろ )

 おかげさまで今もカンボジアで二児の母として、暮らしています。さて、去る7月末はカンボジアでも選挙がありました。眞理子さんが国連ボランティアをされてから5回目の総選挙です。前回(サバイ91号で報告)に続いて私は今回も国際選挙監視員を務めました。

1.自由・公正・公平な選挙?!

 昔カンボジアに来てすぐに知人から、この国は民主主義じゃないからね、といわれて驚いたことがありますが、それを示すような出来事が今回私の周りで次々と起こりました。選挙キャンペーン初日の朝には、我が家の門に与党のビラが勝手に貼られました。選挙の度にあることとは言えひどいと、私と夫は相談してこのビラを剥がしました。翌日、同居の義姉が勤める役場の上司から電話があり、何故ビラを剥がしたのか、このままではもう仕事はないぞと脅されました。クビになるのを恐れた義姉は、その後職場からの総動員がかかるたびに与党の集会やパレードに参加しに行っていました。そこでは出欠がとられるということでした。後から分かったことですがビラを貼ったのは村長で、剥がされているのを見て上の人に告げ口したようでした。普通の家は怖がってビラを剥がしたりはしませんので、目立ったのだと思います。この村長は、各戸を回って投票用紙の見本を見せて、与党の欄にチェックを入れさせたり(まるで踏絵のように)、洋服の布を賄賂として渡したりもしていました。また、トゥクトゥクの運転手さんは、2万リエル(約500円)貰えるので与党の選挙パレードに参加しに行くと言っていました。買収はとくに地方で大々的に布や調味料、現金を配る形で行われています。
 情報統制も露骨です。テレビや新聞は与党一色。唯一の野党の広報手段はラジオだけですがこれも一時期、選挙キャンペーン期間中は放送禁止という政府のお達しが出ました。禁止に指定されたのがボイスオブアメリカ(VOA)だったこともあり、アメリカをはじめ外国からの圧力でこれは一夜にして取り消されましたが。

空港通りを埋め尽くす野党支持者たち

2.野党の躍進

 そんな中でも、前回と今回の選挙を見て明らかに違ったのは、野党の大躍進でした。とくに選挙パレードに参加している若者の数が圧倒的に増えていました。それには、フェイスブック(インターネット上のサービス)の浸透があったと言われています。前述のラジオ禁止令を受けて、見られる人達は一斉に情報を求めてインターネットに走りましたので、それも後押ししたと思います。私の友人たちもそうですが、フェイスブックを通じて野党支持の記事や、与党を揶揄するような面白いネタを共有しあったり、自分の意見を表明したりしていました。そこには政府の規制がありませんので、みな自由にものを言えます。象徴的だったのが、野党党首サム・レンシー氏の帰国の際でした。10万人ともいわれる人々が空港に押し寄せ、選挙直前に恩赦を受けて亡命生活から帰国した同氏を出迎えました(右写真)。こうした状況は地方でも同様で、野党の集会には数万人単位の人々が集まって熱狂しました。

3.選挙当日、目にしたこと

 選挙当日は7か所のプノンペン市内投票所を回りました。おおむね平和裏に行われていましたが、どこでも見られたのが「ない、ない」と言いながら自分の名前を有権者名簿に探す人々でした。投票券を持っているのに指定された投票所に行っても名簿に名前のない人、毎回同じ投票所で選挙してきたのに今回は名前がない人、それには野党支持と思われる人は名簿から名前を消されてしまうという背景があると言われています。選挙管理委員会は中央から地方まですべて与党の人だからです。数十人単位で名前がない人がいたある投票所では、怒る人々が責任者に詰め寄って騒然とする様子も目にしました。一方で名簿の水増しも指摘されています。実際私の知り合いはプノンペン市内3か所の投票所の名簿に名前があるということでしたし、監視員として回っていた時にも投票済であることを示す指につけるインクが、なぜか複数の指についていて両手真っ青の人も見ました。わけを尋ねると、自分は美容師でこの手はお客さんの髪を染めたためだ、とのこと。
 投票は午後3時に締め切られ、投票所ごとにその場で開票作業に入りました。私が見たどの投票所でも野党が1.5から2倍の差で与党を引き離しており、本当に政権が交代するかもしれないという雰囲気が漂いました。フンセン首相の自宅周辺の道路は封鎖され、人々は買いだめに走りました。その雰囲気は何とも表現できない異様な空気でした。
 毎回、選挙の大勢は翌朝に判明するのですが、今回は選挙管理委員会が夜8時半という奇妙な速さで、選挙速報を突然テレビ放送しました。しかも、全州の結果を見せずに途中で終わってしまいました。引き続いて与党が独自集計した結果が発表され、与党68議席に野党55議席とのこと。野党の議席は倍増したものの、明らかに実際と違う、操作された数でした。

空港通りを埋め尽くす野党支持者たち

4.今後は??

 選挙から数週間がたちますが、いまだ結果が確定していません。投票所ごとの集計結果も発表されていません(発表すれば操作がばれてしまうでしょう)。野党も独自の集計を発表して勝利宣言。選挙の不正を調べるための調査委員会の設置を求め、選挙管理委員会の出方によっては数週間の大規模デモも辞さないとしています。ただ、フェイスブックでは相変わらず若者たちが野党の勝利を訴え続けていますが、デモをするとなった時に彼らが仮想空間から現実に出てくるのか、私には分かりません。フェイスブックの中では楽しくいわばファッションのように野党を支持する若者たちですが、やむにやまれぬ怒りのようなものは、あまり感じられない気がしています。一部にはまたか、やっぱりだめなのか、という諦めの雰囲気も漂っているように思います。
 どのような結果になるにせよ、私個人としてはどうしても日本の選挙と比較してしまうので、選挙にここまで国中が熱くなれるのを羨ましく思いました。それは政治が未来を必ず良くするという確信があるからだと感じます。また、少し飛躍しますが、この状況を根本的に変えるには、教育しかないという思いも強くしました。人は知識や情報を得れば、やみくもに権力を恐れることもなくなり、堂々と自分の意見を表明できるようになります。それは今のプノンペンの若者と、大人たちとの差に表れていると思います。言論の自由、政治参加の権利はこの国の憲法でも保障されているのです。しかし一般の人はそのことも知りません。今回野党に肩入れしたような書き方になってしまいましたが、それも与党がこうした基本的人権を無視した選挙を強行し続けるのが見るに堪えないためです。この国に本当の自由・公正・公平な選挙が実現される日が来ることを切に願います。